【0から学ぶAI】第195回:位置エンコーディング 〜 シーケンス内の単語の位置情報を扱う方法を解説

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前回の振り返り:マルチヘッド注意機構

前回は、マルチヘッド注意機構について詳しく解説しました。この機構は、Transformerモデルの中核を成す技術で、複数の視点から文脈を理解することで、テキスト生成や意味理解を高めることができます。マルチヘッド注意機構により、文中の単語同士の関連性を多角的に捉えることが可能となり、自然で一貫性のある文章を生成できるようになりました。今回は、Transformerモデルにおいて欠かせない位置エンコーディングについて解説します。

位置エンコーディングとは?

位置エンコーディングは、Transformerモデルが入力シーケンス内の単語の順序情報を学習するための手法です。従来のRNNやLSTMなどのシーケンシャルなモデルでは、単語の順序が自動的に保持されていましたが、Transformerは並列処理が可能であるため、単語の順序を明示的に伝える必要があります。位置エンコーディングは、この課題を解決するために導入されました。

例えで理解する位置エンコーディング

位置エンコーディングを「単語に番号札をつける」と考えるとわかりやすいです。例えば、「私は学校に行った」という文章がある場合、位置エンコーディングによって「私」には位置1、「は」には位置2、「学校」には位置3…という順序情報が付与されます。このようにして、モデルは単語の位置関係を学習しやすくなります。

位置エンコーディングの種類

位置エンコーディングには、主に2つの方法が存在します:絶対位置エンコーディング相対位置エンコーディングです。それぞれの特徴と違いについて説明します。

1. 絶対位置エンコーディング

絶対位置エンコーディングは、入力シーケンス内の各単語に対して一意の位置情報を与える方法です。Transformerの初期モデルで使用された手法で、特定の数式によって位置情報を生成します。この数式には、サイン関数コサイン関数が使われ、位置ごとの変動が規則的に与えられます。

例:サイン関数とコサイン関数によるエンコーディング

位置( pos )と次元( i )を用いて、次のようにエンコーディングを計算します:
[
PE(pos, 2i) = \sin\left(\frac{pos}{10000^{2i/d}}\right)
]
[
PE(pos, 2i+1) = \cos\left(\frac{pos}{10000^{2i/d}}\right)
]
ここで、( d )は埋め込みベクトルの次元です。このようにして、各位置に対して異なる周期的な変動が与えられ、モデルが単語の順序を理解できるようになります。

2. 相対位置エンコーディング

相対位置エンコーディングは、ある単語と他の単語との相対的な位置関係をエンコードする方法です。絶対位置エンコーディングとは異なり、各単語間の相対的な距離に基づいてエンコーディングを行います。この手法は、長いシーケンスに対しても効果的に機能し、文脈の変化に柔軟に対応できるという特徴があります。

例:近い単語と遠い単語の区別

「彼は昨日、彼女と映画を見に行った」という文で、「彼」と「彼女」は文頭から比較的近い位置にありますが、「彼」と「映画」は離れています。相対位置エンコーディングでは、この距離情報をエンコードすることで、近い単語同士の関連性を強く反映させ、遠い単語間の関連性を弱めることができます。

位置エンコーディングの役割

位置エンコーディングは、単語の順序情報を明示的にモデルに伝えることで、文脈理解を助ける重要な役割を果たします。以下のような利点があります。

1. 単語順序の保持

Transformerは並列処理が可能ですが、並列処理によって単語の順序情報が失われる可能性があります。位置エンコーディングは、この順序情報を保ちながら処理を行うため、文脈を正確に理解する助けとなります。

2. 文脈の多様な解釈

位置エンコーディングは、単語間の距離を考慮することで、文中の異なる位置にある情報の関連性をモデルに伝えることができます。これにより、文脈に応じた多様な解釈が可能になります。

3. 長文の処理

長い文章においても、位置エンコーディングを使うことで文脈を正確に保持し、全体の意味を一貫して捉えることができます。

位置エンコーディングの応用例

1. 自然言語処理(NLP)タスク

機械翻訳や文章要約などのNLPタスクでは、位置エンコーディングが重要な役割を果たします。単語の順序が異なると文の意味が大きく変わるため、適切なエンコーディングによって順序情報を保持することが不可欠です。

2. 音声認識

音声認識の分野でも、位置エンコーディングは使用されています。音声信号を時間軸に沿って処理する際に、信号の位置情報をエンコードすることで、正確な音声認識が可能となります。

3. 時系列データの解析

位置エンコーディングは、時系列データの解析にも利用されます。株価や気象データなどの時間に依存するデータに対して、時系列の順序を反映させることができ、予測精度の向上につながります。

まとめ

今回は、位置エンコーディングについて解説しました。位置エンコーディングは、シーケンス内の単語の順序情報を扱うための手法で、Transformerモデルにおいて重要な役割を果たしています。絶対位置エンコーディングと相対位置エンコーディングの2つの手法があり、それぞれ異なる状況で効果的に働きます。次回は、BERTの学習方法であるマスク化言語モデルについて学びます。


次回予告

次回は、BERTとマスク化言語モデルについて解説します。BERTは、特定の単語をマスクして予測する自己教師あり学習により、高精度な自然言語処理を実現しています。その仕組みと利点について詳しく解説しますので、ぜひお楽しみに!


注釈

  1. 位置エンコーディング: 単語の順序情報をエンコードしてモデルに伝える手法。Transformerモデルにおいて文脈理解を助けるために用いられる。
  2. 絶対位置エンコーディング: 固定的な数式を使って各単語の位置をエンコードする方法。サイン関数とコサイン関数を用いることが多い。
  3. 相対位置エンコーディング: 単語間の相対的な距離をエンコードする方法。文脈の柔軟な理解に役立つ。
  4. 並列処理: 複数の計算を同時に行うことで効率的に処理を進める技術。Transformerモデルの計算効率を向上させるために使われる。
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