前回の振り返り:欠損値の代入方法
前回は、データセットに欠損値が含まれる場合の対処法として、平均値、中央値、最頻値を使った代入方法について解説しました。それぞれの手法が持つ特徴や適用場面を説明し、欠損値が機械学習モデルに与える悪影響を防ぐための基本的な処理方法を学びました。
今回は、データの中でも特に扱いが難しい時系列データに焦点を当て、その前処理方法としてラグ特徴量と移動平均をどのように使うかを解説します。
時系列データとは?
時系列データ(Time Series Data)は、時間の経過に伴って観測されるデータのことを指します。株価の変動、天気の推移、センサーデータなど、時間軸に沿って観測されるデータが該当します。時系列データは、他のデータと異なり、過去のデータが現在や未来の予測に強い影響を与えるため、時間的な依存性を考慮する必要があります。
例えで理解する時系列データ
時系列データは、「日記を通じて毎日記録される生活の出来事」と例えることができます。過去の日記の内容(データ)が、今日の出来事や将来の計画に影響を与えるように、時系列データにおいても過去の値が現在や未来の予測に重要な意味を持ちます。
時系列データの前処理
時系列データを正しくモデル化するためには、適切な前処理が必要です。ここでは、時系列データの特性を活かしつつ、より精度の高い予測を行うために有効なラグ特徴量と移動平均について説明します。
1. ラグ特徴量
ラグ特徴量(Lag Features)は、過去のデータポイントを現在のデータに結びつけて、予測に利用する方法です。例えば、株価の予測を行う際に、1日前、2日前、3日前の株価データを特徴量として使用することで、現在の株価を予測します。
例:ラグ特徴量での予測
例えば、明日の株価を予測する際に、過去3日間の株価データを使うとします。この場合、1日目から3日目までの株価がラグ特徴量として機能し、明日の株価予測に役立ちます。
ラグ特徴量のメリット
- 過去のデータを活用: 時系列データの過去の動向が将来の予測に役立つ場合に有効です。
- パターンを捉える: データの傾向や繰り返しパターンを効果的に捉えることができます。
ラグ特徴量のデメリット
- データ量の増加: ラグの期間が長くなるほど、データ量が増加し、計算コストが高まります。
- 過去データの影響: 過去のデータに依存しすぎると、新しいトレンドを捉えられないリスクがあります。
ラグ特徴量の応用場面
ラグ特徴量は、天気予測、経済データの分析、需要予測など、時間的な依存性が強いデータセットに対して非常に有効です。例えば、天気予測では、過去の気温や降水量のデータが、翌日の天気を予測するのに役立ちます。
2. 移動平均
移動平均(Moving Average)は、データの短期的な変動を平滑化し、全体的なトレンドを捉える手法です。特定の期間内のデータの平均値を計算し、その値を用いて次のデータポイントを予測します。移動平均は、短期的なノイズを取り除くために効果的です。
例:移動平均での予測
株価データで、直近5日間の株価の平均を計算し、それを基に翌日の株価を予測する場合、この5日間の平均値が移動平均として使われます。移動平均は、短期的な変動を抑えて、長期的なトレンドを把握するのに役立ちます。
移動平均のメリット
- ノイズを低減: 短期的な変動を平滑化し、データの全体的なトレンドを捉えるのに有効です。
- 直感的な理解: データのトレンドを視覚的に把握しやすく、予測精度の向上に貢献します。
移動平均のデメリット
- 遅延の発生: 過去のデータに基づいて計算するため、リアルタイムでの予測には遅延が生じます。
- 新しいトレンドを捉えにくい: 長期間のデータを平均化するため、急激な変動や新しいトレンドに対応しにくくなります。
移動平均の応用場面
移動平均は、株価予測や売上予測など、過去のデータのトレンドが将来に影響を与える分野で広く利用されています。短期的なノイズを除去し、データの全体的な傾向を見極めることができるため、長期的な戦略を立てる際に有効です。
単純移動平均と指数平滑移動平均
移動平均にはいくつかのバリエーションがあります。最も一般的なものは単純移動平均(SMA: Simple Moving Average)と指数平滑移動平均(EMA: Exponential Moving Average)です。
- 単純移動平均(SMA): 指定した期間内のデータポイントの平均を計算する手法です。例えば、過去5日間のデータを単純に平均して、次の予測に活用します。
- 指数平滑移動平均(EMA): より直近のデータに重みを置いて平均を計算する手法です。これにより、直近の変動をより敏感に反映し、短期的なトレンドにも対応します。
時系列データ前処理の重要性
時系列データの前処理は、単なるノイズ除去だけでなく、データの特性を理解し、正確な予測を行うための基盤となります。ラグ特徴量と移動平均を組み合わせて使用することで、過去のデータの傾向を正確に把握し、将来の予測に活かすことができます。
まとめ
今回は、時系列データの前処理における重要な手法であるラグ特徴量と移動平均について解説しました。ラグ特徴量は、過去のデータを活用して未来を予測するのに役立ち、移動平均は短期的な変動を平滑化し、全体的なトレンドを捉えるのに効果的です。次回は、画像データの前処理について、リサイズや正規化、データ拡張といった具体的な技術を学びます。
次回予告
次回は、画像データの前処理について解説します。画像データを効果的に扱うためのリサイズ、正規化、データ拡張といったテクニックを学びましょう。
注釈
- 時系列データ(Time Series Data): 時間の経過とともに観測されるデータ。
- ラグ特徴量(Lag Features): 過去のデータポイントを現在のデータに結びつける特徴量。
- 移動平均(Moving Average): 一定期間のデータの平均を計算し、短期的な変動を平滑化する手法。
- 単純移動平均(SMA: Simple Moving Average): 過去のデータポイントの単純な平均を取る手法。
- 指数平滑移動平均(EMA: Exponential Moving Average): 直近のデータに重みを置いて平均を取る手法。
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