前回の振り返り:SMOTEによるオーバーサンプリング
前回は、データの不均衡を解消するための効果的な手法であるSMOTE(Synthetic Minority Over-sampling Technique)について学びました。SMOTEは、少数クラスのデータを増加させる方法で、データセットのバランスを取るのに役立ちます。これにより、少数クラスのデータ不足が原因でモデルが偏って学習するリスクを軽減できることが分かりました。
今回は、機械学習においてよく発生する問題である「欠損値(Missing Values)」に対する対処法について解説します。特に、欠損値を補完するための平均値、中央値、最頻値の代入方法に焦点を当てます。
欠損値とは?
欠損値(Missing Values)とは、データセット内で、ある特徴量に値が存在しない場合のことを指します。例えば、顧客の購買データにおいて、ある顧客の年齢や住所が記録されていない場合、それが欠損値です。欠損値が含まれるデータは、そのまま機械学習に使用すると、モデルの学習に悪影響を及ぼす可能性が高く、予測精度が低下することがあります。
例えで理解する欠損値
欠損値を「パズルのピースがいくつか欠けているパズル」に例えることができます。ピースが欠けていると、全体像を完成させるのが難しくなります。同様に、データの一部が欠けていると、データ全体のパターンを把握するのが困難になり、モデルの性能が低下します。
欠損値の代入方法
欠損値の代入方法にはいくつかの手法がありますが、最も基本的でよく使われるのが平均値、中央値、最頻値を使った代入です。それぞれの方法には、データの特性や目的に応じて適した場面があります。
1. 平均値による代入
平均値(Mean)は、数値データにおいて最も一般的な代入方法の一つです。データの平均を計算し、その値を欠損している部分に代入する手法です。データが正規分布に従っている場合や、外れ値が少ない場合に有効です。
例:平均値での代入
例えば、学生のテストの点数がいくつか欠けているとします。残りの点数の平均を計算して、欠けている部分にその平均点を代入します。これにより、データ全体の傾向を保ちながら欠損値を補うことができます。
平均値代入のメリット
- 実装が簡単で、計算コストが低い。
- データ全体の傾向を反映するため、外れ値が少ないデータに適している。
平均値代入のデメリット
- 外れ値が多い場合、平均値がデータの実態を正確に反映しない可能性がある。
- 欠損が多すぎると、全体のバラつきが失われ、モデルが過学習しやすくなる。
2. 中央値による代入
中央値(Median)は、データの真ん中に位置する値を代入する方法です。外れ値の影響を受けにくいため、外れ値が多い場合やデータが偏っている場合に有効です。特に、家計収入や不動産価格など、極端な値が存在するデータに対して適しています。
例:中央値での代入
例えば、不動産価格のデータセットで、いくつかの地域の価格データが欠けている場合、他の地域の価格の中央値を計算し、それを欠損値として代入します。これにより、極端に高い価格や低い価格の影響を受けにくくなります。
中央値代入のメリット
- 外れ値の影響を受けにくい。
- データが偏っている場合でも、全体のバランスを維持しやすい。
中央値代入のデメリット
- データが正規分布に従っている場合、平均値ほど適切ではないことがある。
- 連続データでの細かな違いを反映できないため、細かい傾向を把握するのには不向き。
3. 最頻値による代入
最頻値(Mode)は、カテゴリデータや離散データにおいて最もよく使われる値を代入する方法です。特に、性別や地域、製品カテゴリなどのデータに対して適しています。例えば、アンケートデータで「回答なし」が多い場合、そのカテゴリの最も一般的な回答(最頻値)を欠損値として代入します。
例:最頻値での代入
アンケート調査で、顧客が住んでいる地域のデータが一部欠けている場合、他の顧客が最も多く選んだ地域を欠損値として代入することができます。これにより、一般的な傾向に基づいてデータの一貫性を保つことができます。
最頻値代入のメリット
- カテゴリデータに対して適用しやすい。
- 最も多く見られる傾向を反映するため、データ全体の一貫性を維持しやすい。
最頻値代入のデメリット
- 連続データには適用しにくい。
- 欠損値が多い場合、代入した値が全体の分布を歪めるリスクがある。
欠損値代入の選び方
欠損値をどのように代入するかは、データの特性や問題に応じて異なります。以下のポイントを参考に、適切な方法を選びましょう。
- データが正規分布に近い場合: 平均値代入が適しています。
- 外れ値が多い場合やデータが偏っている場合: 中央値代入が効果的です。
- カテゴリデータが多い場合: 最頻値代入が適しています。
また、欠損値が多すぎる場合は、代入手法に頼るのではなく、場合によっては欠損値の多い特徴量を削除したり、欠損値が発生している行を除外することも検討する必要があります。
まとめ
今回は、データの欠損値に対処するための基本的な方法である平均値、中央値、最頻値による代入方法について解説しました。欠損値の存在は、モデルの精度に大きな影響を与えるため、適切な方法で処理することが重要です。それぞれの方法には長所と短所があり、データの特性に応じて使い分けることが大切です。次回は、時系列データの前処理について解説し、データを時系列として扱う際の注意点や、ラグ特徴量や移動平均について学びます。
次回予告
次回は、時系列データの前処理について解説します。ラグ特徴量や移動平均を使って、時系列データをより正確にモデル化する方法を学びましょう。
注釈
- 欠損値(Missing Values): データセット内で、ある特徴量に値が存在しない場合。
- 平均値(Mean): データの合計をデータポイント数で割った値。
- 中央値(Median): データを小さい順に並べた時の中央の値。
- 最頻値(Mode): データの中で最も頻繁に現れる値。
- k近傍法(k-nearest neighbors): データポイントの近くにある他のデータポイントを探すアルゴリズム。
コメント