【0から学ぶAI】第116回:時系列予測

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前回の振り返り:異常検知

前回は、通常のパターンから逸脱したデータや挙動を検出する手法である異常検知について解説しました。異常検知は、製造業や金融、セキュリティ分野など、様々な場面で活用され、早期に問題の兆候を捉え、適切な対応を可能にするための重要な技術です。統計的手法、機械学習、密度ベースの手法、そして時系列データを扱う異常検知の手法も取り上げ、どのようにして異常を特定できるかを学びました。

今回は、時系列予測に焦点を当て、未来の値をどのように予測するか、その手法や応用について解説します。

時系列予測とは?

時系列予測とは、過去のデータを基に、時間の経過とともに変動するデータの未来の値を予測する手法です。時系列データは、株価や気温、売上、センサーの計測値など、時間に依存する多くの分野で見られるデータです。時系列予測を行うことで、将来の動向やイベントを予測し、戦略的な意思決定に役立てることができます。

例えで理解する時系列予測

時系列予測を「天気予報」に例えることができます。気温や降水量などの過去のデータを基に、次の日や次の週の天気を予測するのは、時系列予測の一例です。このように、過去のデータに基づいて未来の動きを予測することは、ビジネスや日常生活の様々な分野で活用されています。

時系列予測の基本的な手法

時系列予測には、いくつかの基本的な手法があります。以下に代表的な手法をいくつか紹介します。

1. 移動平均(Moving Average)

移動平均は、時系列データの変動を滑らかにし、全体の傾向を把握するための手法です。一定の期間のデータの平均値を取り、その期間を移動させながら平均を算出します。これにより、短期的な変動を排除し、長期的な傾向を明確にします。

例えで理解する移動平均

移動平均は「過去のテストの平均点で今後の成績を予測する」ようなものです。例えば、過去5回のテストの平均点を計算し、その結果を基に、次回のテストの成績を予測するという方法です。このように、移動平均は過去のパフォーマンスに基づいて未来を予測します。

2. 自己回帰モデル(AR:AutoRegressive Model)

自己回帰モデル(ARモデル)は、過去のデータポイントを用いて未来の値を予測する手法です。現在の値は過去のデータに依存しているという仮定に基づき、未来の予測を行います。過去の値を重み付けし、未来の値を推定するため、時系列データのパターンが比較的一定している場合に有効です。

例えで理解する自己回帰モデル

自己回帰モデルは「スポーツ選手の過去のパフォーマンスから、次の試合の結果を予測する」ようなものです。例えば、過去の試合で高いパフォーマンスを発揮している選手は、次の試合でも同様に高いパフォーマンスを出すだろうという予測をします。

3. 自己回帰移動平均モデル(ARMA)

ARMAモデルは、自己回帰モデルと移動平均モデルを組み合わせた手法です。自己回帰部分は過去のデータから未来を予測し、移動平均部分は誤差を修正して予測を改善します。これにより、短期的な変動を捉えつつ、長期的なトレンドを把握することが可能です。

例えで理解するARMAモデル

ARMAモデルは「過去の成績を基にした予測に、テストの難易度や環境の変化を考慮する」ようなものです。単純な過去のデータだけでなく、予測に含まれる誤差や外的要因も考慮して、より精度の高い予測を行います。

4. ARIMAモデル(AutoRegressive Integrated Moving Average)

ARIMAモデルは、非定常な時系列データに対応するために開発されたモデルです。ARIMAは「自己回帰」「差分」「移動平均」の3つの要素を組み合わせた手法で、非定常なデータ(例えばトレンドや季節性のあるデータ)に対して有効です。特に、売上予測や経済予測など、時間とともに変動するデータを扱う際に広く利用されています。

例えで理解するARIMAモデル

ARIMAモデルは「季節ごとの売上変動を考慮した予測」や「一定の成長傾向があるデータに対する予測」に似ています。例えば、夏場に売上が増える傾向がある商品であれば、その季節性を加味して未来の売上を予測することができます。

5. 季節変動を考慮したARIMA(SARIMA)

SARIMAモデルは、ARIMAモデルに季節性を加味した拡張バージョンです。時間軸に沿って周期的な変動がある場合、SARIMAモデルを用いることで、季節性を考慮した精度の高い予測が可能になります。

例えで理解するSARIMAモデル

SARIMAモデルは「クリスマスセール時期の売上を予測する」ようなものです。毎年12月になると売上が急上昇するような場合、その季節的なパターンをモデルに組み込むことで、次の12月の売上をより正確に予測することができます。

ディープラーニングを用いた時系列予測

近年、ディープラーニングを用いた時系列予測が注目を集めています。ディープラーニングは、複雑な非線形のパターンや長期的な依存関係を捉えることが得意であり、従来の統計的手法では捉えきれなかった複雑なデータのパターンを学習することができます。

1. 再帰型ニューラルネットワーク(RNN)

再帰型ニューラルネットワーク(RNN)は、過去の情報を利用して未来を予測するために設計されたディープラーニングモデルです。特に時系列データのような連続するデータに対して有効で、短期的な予測や連続したデータの予測に強みを発揮します。

例えで理解するRNN

RNNは「過去の記憶を元に未来を予測する」と考えることができます。例えば、過去数日の天気のパターンを学習し、その情報を基に翌日の天気を予測するような仕組みです。

2. LSTM(Long Short-Term Memory)ネットワーク

LSTMは、RNNの一種で、長期的な依存関係を捉えるのが得意なモデルです。通常のRNNは、長い時系列データに対してうまく学習できないことがありますが、LSTMは長期間の依存関係を保持することで、これを克服します。

例えで理解するLSTM

LSTMは「試合の序盤から終盤までの流れを考慮して、最終結果を予測する」ようなものです。長い試合の中での様々な要因を取り入れ、最終的な結果にどう影響するかを学習します。

3. トランスフォーマーモデル

トランスフォーマーモデルは、元々自然言語処理で使用されていましたが、時系列予測にも応用されています。自己注意機

構を用いることで、時系列データ全体のパターンを同時に処理できるため、特に長い時系列データに対して高いパフォーマンスを発揮します。

時系列予測の応用例

1. 財務予測

時系列予測は、企業の売上や利益、株価の予測に広く利用されています。過去のデータを基に、将来の業績を予測することで、企業は戦略的な意思決定を行うことが可能です。

2. 需要予測

小売業や物流業において、商品の需要を予測することは、在庫管理や生産計画において重要です。時系列予測を活用することで、適切な在庫量を確保し、過剰在庫や欠品を防ぐことができます。

3. 天気予報

時系列データは、気象データの分析や予測にも利用されます。気温、湿度、風速などのデータを基に、翌日や翌週の天気を予測することで、農業や航空業、レジャー産業などに貢献しています。

まとめ

今回は、時系列予測について解説しました。過去のデータに基づいて未来の動向を予測する時系列予測は、財務、需要、気象など多くの分野で重要な役割を果たしています。伝統的な手法からディープラーニングを用いた高度な手法まで、様々なアプローチがあります。特にLSTMやトランスフォーマーモデルのような最新技術を用いることで、より精度の高い予測が可能となっています。


次回予告

次回は、ディープラーニングの最新トレンドについて解説します。AI研究の最前線で行われている注目の技術やトピックについて学びましょう。お楽しみに!


注釈

  1. 時系列データ: 時間の経過に従って変動するデータのこと。
  2. 移動平均: データの変動を滑らかにするために、過去のデータの平均値を用いる手法。
  3. 自己回帰モデル(AR): 過去のデータに基づいて未来の値を予測するモデル。
  4. ARIMAモデル: 自己回帰、移動平均、差分を組み合わせて非定常なデータを予測するモデル。
  5. LSTM: 再帰型ニューラルネットワークの一種で、長期的な依存関係を学習できるモデル。
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