前回のおさらいと今回のテーマ
前回は、ロジスティック回帰について学びました。この手法は、二値分類問題において、データを二つのカテゴリに分けるために使用されます。たとえば、ある顧客が商品を購入するかどうか、メールがスパムかどうかといった予測問題に適しています。
今回は、データを木構造で分類・予測する手法「決定木アルゴリズム」について学びます。決定木は、視覚的で直感的に理解しやすい手法であり、特徴量に基づいてデータを分岐させ、分類や予測を行います。それでは、決定木アルゴリズムの仕組みとその応用について詳しく見ていきましょう。
決定木とは?
木構造でのデータ分類
決定木アルゴリズムは、データを特徴量に基づいて階層的に分割し、分類または回帰を行う手法です。この「木構造」は、ルート(根)から始まり、特徴量に応じてデータを分割していくことで、最終的に「葉」にたどり着きます。葉はデータの分類結果や予測値を示します。
例えば、ある顧客が商品を購入するかどうかを予測する場合、最初の分岐は「顧客の年齢」かもしれません。次に「収入」といった別の特徴量でさらにデータを分割していきます。このようにして、最終的に「購入する」または「購入しない」という予測結果にたどり着きます。
分岐の基準
決定木は、データを分割する際に「分岐の基準」を使用します。最も一般的な基準は「ジニ不純度」と「情報利得」です。
- ジニ不純度: 各分岐点で、データの不純度(つまり、異なるクラスが混在している度合い)を測定し、最も不純度が低くなるように分割します。
- 情報利得: データのエントロピー(不確実性)を減少させる量を最大化する分割を選びます。エントロピーが減少するほど、分類が確定的になるため、情報利得が高い分割が好まれます。
これらの基準により、決定木は最も効果的にデータを分割し、予測精度を高めます。
決定木の構築プロセス
データの準備
まず、データを集めて前処理を行います。前処理には、欠損値の処理やカテゴリ変数のエンコーディング、データの標準化などが含まれます。これらのステップは、決定木が効率的に機能するために必要です。
決定木の成長
データが準備できたら、決定木を構築します。構築はルートノード(最初の分岐点)から始まり、各ノードでデータを分割し続けます。このプロセスは、すべてのデータが同じクラスに分類されるか、設定した分岐基準に合わなくなるまで続きます。
枝刈り
決定木が成長しすぎると、過学習(トレーニングデータに過度に適応すること)のリスクが高まります。これを防ぐために、「枝刈り」と呼ばれるプロセスを行います。枝刈りは、予測精度を維持しつつ、木を簡素化するために不必要な枝を切り落とすことです。
決定木の具体的な例
実生活での例
決定木の考え方は、私たちが日常生活で行う意思決定プロセスにも似ています。例えば、今日は外食しようか、自宅で食事しようかを決めるとき、天気、時間、外出の気分などの要素を考慮して決定します。このプロセスも、まさに決定木の考え方そのものです。
- 天気が良ければ、外食の可能性が高くなり、
- 雨が降っていれば、自宅で食事をする可能性が高くなる。
このように、決定木はさまざまな要因を考慮しながら、最も適切な判断を下すために使用されます。
決定木アルゴリズムの応用例
顧客分類
マーケティングの分野で、決定木は顧客を特定のセグメントに分類するのに役立ちます。例えば、顧客の購買履歴や属性に基づいて、将来的にどのような商品を購入する可能性が高いかを予測します。
医療診断
医療の分野では、決定木を使って患者の症状や検査結果に基づき、特定の疾患にかかるリスクを評価することができます。これにより、早期診断や適切な治療計画の立案が可能となります。
チャーン予測
チャーン(顧客の離脱)を予測するために、決定木が利用されます。顧客の行動や利用状況に基づいて、どの顧客がサービスを解約する可能性が高いかを特定し、早期に対応策を講じることができます。
決定木のメリットとデメリット
メリット
- 解釈の容易さ: 決定木は視覚的に理解しやすく、どのような基準で分類が行われたのかを直感的に把握できます。
- 非線形な関係の処理: 決定木はデータの非線形な関係を扱うことができ、複雑なデータセットにも適応できます。
- 前処理が少なくて済む: 決定木はカテゴリ変数のエンコーディングやデータの標準化を必要としないため、データ前処理の負担が軽減されます。
デメリット
- 過学習のリスク: 決定木が深くなりすぎると、過学習のリスクが高まります。これにより、新しいデータに対する予測精度が低下する可能性があります。
- 予測精度の限界: 決定木単体では、非常に高い予測精度を達成することが難しい場合があります。そのため、後述するアンサンブル学習の一環として使用されることが多いです。
次回は、決定木アルゴリズムを強化するためのアンサンブル学習の手法である「ランダムフォレスト」について詳しく解説します。この手法は、複数の決定木を組み合わせることで予測精度を向上させる強力な技術です。
まとめ
決定木アルゴリズムは、データを階層的に分割して分類や予測を行う手法であり、その直感的な構造と視覚的な解釈が魅力です。これにより、複雑なデータセットに対しても非線形な関係を効果的に捉えることができます。また、データの前処理が少なくて済むため、迅速に実装できる点も大きな利点です。
しかし、一方で過学習のリスクや単体での予測精度の限界といった課題もあります。これらの課題を克服するためには、次回学ぶ「ランダムフォレスト」のようなアンサンブル学習の手法が有効です。これにより、決定木アルゴリズムの強力な特徴を最大限に活かしながら、精度の向上を図ることが可能になります。
次回予告
次回は、決定木アルゴリズムをさらに発展させた手法である「ランダムフォレスト」について学びます。ランダムフォレストは、複数の決定木を組み合わせることで予測精度を向上させる強力なアンサンブル学習の一つです。この手法を理解することで、より精度の高いモデルを構築するための基礎を築くことができます。どうぞお楽しみに!
注釈
ジニ不純度: データの不純度を示す指標であり、異なるクラスのデータが混在している度合いを表す。ジニ不純度が低いほど、データが純粋に一つのクラスに分類される。
情報利得: 分割前後でデータのエントロピーがどれだけ減少したかを示す指標。エントロピーが低いほど、不確実性が減少し、分類が確定的になる。
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